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ボクオタによるボクオタのためのブログです

ビギニング・オブ・バークレイ・センター

バークレイセンターと言われても多くの人にはなんのことやらチンプンカンプンだろう。しかしこれからこの場所がボクシング界にとって非常に重要な場所になっていく事は間違いない。今年9月、ニューヨークはブルックリンにてオープンしたこの屋内競技場はNBAチームの一つブルックリン・ネッツの新本拠地にもなった大ハコだ。その収容人数は一万五千人を大きく超え、一般的なボクシングの試合会場としてはいささか過剰とも思えるサイズを持つ。しかしこの会場ではこの先、長い伝統を持つニューヨーク・ゴールデン・グローブ大会が毎年開催される。あの殿堂MSGからアマボクの歴史の一部でもあるイベントを引っ張ってきたのだ。しかもこの動きはそれだけでは終わらない。ボクシング界を代表するプロモーション会社の一つGBPとバークレイセンターとの提携が発表され、今後できるだけ頻繁にこの大会場でボクシングイベントが開催されるという運びになった。これはラスベガス一極集中を終わらせ全米各地でボクシングを根付かせようというGBPの大目標とピッタリ一致する。マイク・タイソンを筆頭に数多の名選手を世に送り出してきたブルックリンという地はまさにうってつけの場所なのだ。

しかしGBPに課されたハードルは高い。世界のどこを見渡しても、一万人以上の観客を集めるボクシング興行は非常に限られる。ましてや定期興行でこれほどの大ハコを用いるのはいささか無謀と思われても致し方無い。もし後楽園ホールが一万数千人規模の会場であれば殆どの試合はガラガラのスタンドをバックに行われることになるだろう。GBPは自身の本気を示すために、記念すべき一発目の興行に四大世界戦をぶつけてきたのだ。

 

その一戦目、ランドール・ベイリーvsデボン・アレキサンダーはクリーンヒットの少ない凡戦に終始してしまった。より責が重いのは一発狙いのみで異常なほど手数が少なかったベイリーにある。ベイリーのヒット数は全45発。これはジャブなどの軽いパンチを含めての数字だ。12ラウンド累計のヒット数が45発というのはコンピュボックス(ボクシングのパンチ数やヒット数を計測するコンピュータシステム)の27年の歴史の中で最少なのだという。ある意味記録的な試合となったわけだが、デボンはウェルター級における適応とコンディションの良さをきっちり証明することができた。新王者の予定は未定だが、この数時間前に英国で行われた挑戦者決定戦において英国のトッププロスペクトであるケール・ブルックが完璧な3RKO勝利を飾り指名挑戦者となった。アレキサンダーvsブルックならこの試合とは大違いの大変な盛り上がりが期待できるだろう。

 

二戦目、ハッサン・ンダム・ンジカムvsピーター・クイリンはこの日一番の熱いファイト。ファイト・オブ・ザ・イヤー候補とまではいかないにせよ、両者に拍手を送りたい素晴らしい打撃戦だった。クイリンが天性のレフトフックを軸に王者を倒すこと実に6度。6回ダウンという数字自体稀なのはもちろん、それだけ倒れまくってもなお最期まで逆転をかけ攻めぬいて観客をエキサイトさせたンジカムのハートにも脱帽だ。なにしろ手数だけなら勝者を完全に上回っていたのだから。クイリンには持って生まれたパンチ力と本能的なタイミングの良さがある。しかし更に上を目指すならばスタミナと細かな技術の向上は必須だろう。なおこの試合にはリマッチ契約があるとのことだが、WBOの規定によりダイレクトリマッチは不可。クイリンはまず他の相手との防衛戦を挟むことになる。今回は準備期間が短かったと語る前王者にはリマッチで逆襲を果たす自信があるようだ。あとどうでもいいけどクイリンは勝利者インタビューで俺をTwitterでフォローしてくれと猛アピールしていた。@KIDCHOCOLATEを夜露死苦!

 

三戦目、ポール・マリナッジvsパブロ・セサール・カノは、下の階級から上げてきたカノがウェイトオーバーの失態を演じたことでいきなりケチが付いてしまった。試合は体力を生かしプレスを掛けるカノに対しマリナッジがジャブを中心にヒット数で対抗するが、止め切れない。11ラウンドにはダウンをもらったマリナッジがややラッキーな判定を得て命拾いするはめになった。マリナッジの次戦はかつて敗れたリッキー・ハットンとのリマッチになる可能性があるという。そのハットンは11月24日に待望の復帰戦を行う。この試合の結果と内容いかんでは一気に話が進むかもしれない。

 

四戦目にしてメインイベント、ダニー・ガルシアvsエリック・モラレスはこの四大戦唯一の、そして鮮やかなKO決着となった。直前になってモラレスがドーピング違反を犯した、いやセーフだというゴタゴタの果てに強引に挙行されたこの一戦、老雄エル・テリブレの衰えはやはり隠せない。迎えた第四ラウンド、溜めをたっぷり効かせたガルシアのレフトフックが炸裂するとモラレスは半回転してロープに吹っ飛びカウントアウト。ガルシアがそんなに優れた選手だとは正直思ったことがないのだが、カーン戦に続いてこのパフォーマンスを見せられては実力を認めざるをえない。とはいえ今回の相手はあくまで老兵。真価が問われるのは暫定王者ルーカス・マティセーとの激突が実現した時であろう。

モラレスは故郷ティファナで引退試合を行いフィナーレを飾る以降なのだという。いかんせんボクサーの、特にメキシカンの引退ほど当てにならないものはないのだが、ここらが潮時だとは誰もが思うことだろう。ありがとうエル・テリブレ。お疲れ様でした。

 

さて今回のバークレイセンターデビューイベントは成功だったのだろうか。試合前のゴタゴタあり、大凡戦あり、大熱戦あり、鮮烈KOありとてんこ盛りの内容でとにかく印象に残ったのは事実だ。観客動員も一万一千人と初回としては上出来だが、相当数のタダ券がバラ撒かれたとも聞く。今後このイベントをこの地に根付かせたいのなら、強力でタイムリーなカードの提供、地元スターの育成、地元メディアや住人を巻き込んだ地道な広報活動などやるべきことは山ほどある。

なにはともあれ非常に意義深いこの試み、ぜひ息の長い成功を収めて欲しい。GBPの奮闘に期待したい。