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西岡利晃、閃光に散る

日本中のボクオタをオープニングベルだけで至福に導いた西岡利晃ノニト・ドネアとの頂上決戦は、ドネアの圧勝に終わった。率直に言って西岡の良さは全く出せなかったと言って良い。もちろん西岡の闘志、頑張りは最大限讃えられるべきだが、勝機と呼びうるものは皆無だった。

一体何がこの結果を生んだのか? 西岡のブランクか、年齢か、はたまた戦術ミスか。

どれも違う。西岡に敗因と呼べるものはなかった。あるとすればただひとつ、ドネアが強すぎた。それだけである。

少なくとも序盤、ドネアの高速コンビを巧みにブロックする西岡の動きはキレていた。脚も体もよく動けていたしパンチにも力があった。今日の西岡はジョニゴン戦、ラファマル戦より弱かったのか。神のみぞ知る話だが、そう決めつけることができるような根拠は何もない。ドネアのほうが、優れていた。

 

ではフィリピンの閃光ことノニト・ドネアの何がそんなに特別なのか。彼の強さを語る時必ず引き合いに出されるのは左フックとスピードだ。ダルチニャンやモンティエルを粉砕した現役最高峰の左フックは彼の代名詞だし、スピードに関してはどんな素人でもひと目見れば瞭然だ。しかしドネアはただ速くてフックが強いだけの選手ではもちろんない。そのような相手であればどこかで西岡のモンスターレフトが炸裂して終わっていたはずだ。

まずスピード。踏み込みの速い選手、パンチの速い選手は数多くいるが、ドネアはバックステップもサイドステップもボディワークも反射神経も状況判断も全てが抜群に速い。だから自分が打ちたい時に打って、相手が打とうとした時にはもうその場にはいないということが簡単にできる。あるいはそうしたヒットアンドアウェイではなく、相手の動きの出鼻を叩いて崩すこともできる。そうやって相手のやることなすことを先に潰していくことで相手の攻め手を消していく。スタイルの見た目は違えどメイウェザー、ウォードらと同質の超天才だ。彼らとの違いはドネアがリスクを犯して相手をKOすることに強い喜びを覚えるある種のスリル愛好家であり、それを実現するだけの一発があるということだ。(メイもウォードも実際には強打を持つが、自分にとっても危険なタイミングで強振したりはしない)

左フック。ドネアの最大の武器は間違いなくそれだが、彼にはそれだけに頼らないパンチの多彩さがある。左フックを警戒すればボディ、右ストレート、アッパーそしてなんだかわからない意味不明な角度のパンチが飛んでくる。そこまではわかっていてもいつどこから来るのかはわからない。このドネア相手に受け手に回ればまず勝ち目はない。残念ながら西岡はこの罠にはまった。かといって攻めに徹すれば勝てたかというと無論それも厳しい。彼には閃光と称するにふさわしいカウンターがある。攻めて良し、攻められて良し。あまりに高い頂きだ。

 

ではドネアに弱点はあるのか。あえて言うなら今や常態化した拳の負傷だろう。打たれても打たれても攻め続け、後半ドネアが拳を痛め集中力を切らしてきたところでビッグパンチをねじ込み一気呵成の連打で試合を終わらせることができれば。つまりはリオスやマイダナのような凶漢ならあるいは……? 言うまでもなくこれは言うは易し行うは超難しの典型のようなやり方だ。ていうかほとんどギャンブルである。かつてラファエル・コンセプションは4ポンド半オーバーという愚行を犯してまでこれを実行しようとしたが、そこそこポイント差を詰めるのが精一杯だった。Sバンタム近辺でこの博打を打てる男といえば……ア、アルセ? いやまさかそんな……え? アラムがマジで組もうとしてるって?

それ以外のパターンだとリゴンドー、ガンボアというもう一極の天才が毒針のような一発で終止符を打つという可能性。これはもう論理ではなくどちらがよりリングの神様に愛されているかの勝負になる。神話の世界だ。ただし待望されているドネアvsリゴンドーは恐らく西岡戦以上にタクティカルで難解な攻防になるものと思われる。チケットを売るためにはセミでリオスvsマティセーでも組むしかないだろう。

 

西岡は頂点に挑み、敗れた。この試合は完敗だったが、しかし彼が築き上げたキャリアの輝きが色褪せることはない。あそこは素晴らしい舞台だった。西岡利晃はそこにふさわしい男だった。引退かどうかは本人が決めることだ。だからあくまでこの試合に対してのみこの言葉を贈る。

ありがとう、そしてお疲れ様でした。