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ボクオタによるボクオタのためのブログです

ミドル級戦線沸騰す!

今ボクシングで一番熱い階級はどこか? Sミドル? いいねえ。Sバンタム? 熱いねえ。ヘビー……はまあいいや。しかし一番といえば何と言ってもミドル級であろう。今週末からいよいよミドル級にたまり続けてきたエネルギーが一気に噴き出す。怒涛のビッグマッチとはまさにこのことだ。

 

9月1日  ゴロフキンvsプロクサ(WBA)

     シュトゥルムvsギール(WBAスーパー&IBF

9月15日  マルチネスvsチャベス(WBC

10月20日 ンジカムvsクイリン(WBO

 

このラインナップは凄い。一つの階級でこれほど短い期間にこれだけ一級のマッチアップが揃うことなど滅多にあることではない。ここにいないトップ選手といえば怪我で一時離脱中のピログぐらいのものだろう。この他にマクリーンvsアルシンという渋いカードも用意されているし、レミューやサンチェス、アンドレードなどといった新鋭も育ってきている。とにかく熱い。しかも単にレベルが高いというだけでなくフレッシュな顔ぶれが多く、しかも出身国がてんでバラバラでスタイルも多彩だということが興味深さに拍車をかけている。

以下では各々のカードをサッとおさらいしていこう。

 

ゲナディ・ゴロフキンカザフスタン)vsグジェゴルツ・プロクサ(ポーランド)

実に好対照なタレントを持つ二人だ。王者ゴロフキンは世界選手権金、アテネ五輪銀という輝かしい実績を引っさげプロ入り。アマエリートの枠を超えたパワー&プレッシャーを持ち味としている重厚なファイターだ。技術を兼ね備えた力戦派というそのファイトスタイルはかつてのJCチャベス(親父のほう)を思い起こさせるとの声もある。これまでテリブル・テリー・ノリスを筆頭に数々の王者を育て上げてきた名伯楽のアベル・サンチェスが、このGGGこそ自分が教えてきた全てのボクサーの中でナンバーワンのタレントだと主張しているほどだ。アマの舞台ではトップクラスの充実ぶりを誇るカザフスタンだが、プロボクシングのグローバルスーパースターはまだ生まれていない。このゴロフキンが第一号となる可能性は十分にある。

挑戦者プロクサも素晴らしいタレントだ。WBO王者ピログ(現在剥奪)の負傷キャンセルによって急遽回ってきたビッグチャンスだが、単なる代役と片付けるには役者が立ち過ぎている。パワーファイター特産地とみなされているポーランドから彗星の如く現れた天才肌のテクニカルボクサーで、その柔軟で自由奔放なボクシングはエレガントな魅力に満ちている。世界王座から転落したばかりのセバスチャン・シルベスターを軽く圧倒しギブアップさせたパフォーマンスは世界中の度肝を抜いた。センスの塊のような男だが、ゴロフキンに勝つにはまだ青いとの声も。

 

フェリックス・シュトゥルム(ドイツ)vsダニエル・ギール(オーストラリア)

4つのタイトル戦の中では最も地味な顔合わせだが、技術レベルは高い。シュトゥルムがミドル級世界タイトルを初めて獲得したのは実に2003年。現在は三度目の政権にして12連続防衛中のまさに大御所だ。その間テイラーやパブリック、アブラハムといったビッグマッチが登っては消え地味ーな存在であり続けたが、力量は誰もが認めている。直近の試合ではタフなズビクに完勝し健在をアピールした。

IBF王者ギールは国際的なネームバリューという点ではまだまだ低い。特に際立った長所もない。しかし敵地ドイツでタイトルを奪い二度の防衛を無難にこなした安定感は伊達ではなく、高いレベルでまとまった好選手だといえるだろう。

この試合は判定に持ち込まれる可能性が極めて高く、スリルはさほど期待できないが、マニアなら唸らされるような場面が多いはずだ。

 

セルヒオ・マルチネス(アルゼンチン)vsフリオ・セサール・チャベスJr.(メキシコ)

これぞミドル級世界大戦のメインイベント、今年のマッチアップ・オブ・ザ・イヤーとの声もあるメガファイトだ。アルゼンチン、メキシコ両国、そしてアメリカのラティーノ社会の盛り上がりは半端ではない。両者のネームバリュー、力量、タイミング、シチュエーション、全てが完璧なミックスアップを実現している。

マラビジャ(マーベラス)ことセルヒオの達人ぶりはもはや説明の必要もないだろう。パブリックを鮮やかに下し、パニッシャーを粉砕。現在世界戦4連続KO防衛中であり、そのすべての試合で卓越したマエストロぶりを見せつけている。軽やかなサウスポースタイルから繰り出される多彩で鋭いパンチの数々、37歳にして衰え知らずの運動量、ここぞという場面でビッグパンチを決める勝負勘とセンス、駆け引きの妙。そのすべてが脅威のおっさんだ。リング内外での模範的なパフォーマンスゆえに王者の理想像とも称される正真正銘の伊達男。この試合で勝利すれば2010年に続くファイター・オブ・ザ・イヤーにあげられる可能性も充分だろう。

伝説の息子チャベスジュニアが伝説の息子という殻を破ろうとしている。この大試合に勝利すれば彼はある意味で「ジュニア」ではなくなるのだ。誰もが不利を予想する中、本人は誇張抜きで勝利を確信しているように見える。デカい、分厚い、パンチが効かない。高度な技術やセンスとは無縁ながら、1人だけ鎧を着て戦っているような特異なフィジカルの強さこそが彼のボクシングの背骨だ。新人時代のひ弱な青びょうたんはどこに行ったのだろうか。親の七光りと笑われてきた。プロテクトされていると叩かれてきた。そうした屈辱の数々が、お金には全く不自由していないであろう彼の強烈なハングリー精神を支えている。

ボクサーとしての現時点での総合力、持って生まれた天性は明らかにセルヒオが上回っている。しかしこの試合、何が起こるか全くわからない。絶対に見逃せない戦いがここにある。

 

ハッサン・ンダム・ンジカム(カメルーン/フランス)vsピーター・クイリン(アメリカ)

発表されたばかりのほやほやカードがこれだ。あるいは次世代のミドル級を担うかもしれない上質なタレントがここで激突する。

ンジカムはWBAの暫定王座からWBO暫定に乗り換え、ピログ剥奪にともなって正規王者に認定された。真のチャンピオンと認知されるのはこの試合に勝ってからになるだろう。柔らかくも力強いアフリカンのリズムと思い切りの良い攻め口が実に小気味良い。身体能力という点では目を見張るものがある。地元フランスは今ひとつプロボクシングが盛り上がっていないためなかなか良い試合に恵まれなかったが、ついに訪れたアメリカ進出というビッグな機会。一世一代のパフォーマンスを見せてくれるはずだ。

キューバの血を引くニューヨーカーのクイリンにとって、願ってもない地元での世界挑戦のチャンスがやってくる。新人時代からアメリカミドル級の将来を担う男と期待されながらも度重なる故障で幾度もブランクを作ってきた。本来ならとうにトッププレーヤーとして活躍しているはずの男のタレント性はしかしいささかも色褪せることがない。彼の最大の長所は「効かせる」パンチを撃つことだ。重いとか硬いとか切れると言うよりもとにかく「効く」。まともに急所を捉えられてしまえばどんな一流王者も膝を揺らしてしまうだろう。

 

さてザクっと見てきたがとにかくとてつもなく楽しみだ。ボクシング界にはもっとこういう試合が必要だ。もっともっと必要だ。こういう試合を提供し続けることができるならこのスポーツが廃れることは決してない。